2011年9月15日木曜日

上手ながんとの折り合い方

がんと折り合う 「諦めず自分らしく」

がんで悩む人に読んでほしい」と語る久保田医師

 県立がんセンター久保田彰・頭頸部(けい・ぶ)外科部長(56)が、上手ながんとの折り合い方を一冊の本にまとめた。医学書でも、医学用語で治療法を細かく記した本でもない。「我慢しないで、諦めないで、自分らしく生きていくための参考にしてほしい」と語る。

 この本は「知っていると楽になる、がんとの付き合い方―がんで悩んでいるあなたへの処方箋(・・せん)」。

 「がんを怖がらないで」「焦らず自分が納得できる治療法を選ぶ」「痛みはがまんしない」――。冒頭には「がんと上手に折り合うための15カ条」が並ぶ。20年以上がんと向かい合ってきた久保田医師が、患者やその家族から教えられてきたことなどをまとめた。

 久保田医師自身、かつては生存率を上げるのが正しい治療法と思い、それを選択してもらうよう患者に説明してきた。後遺症のない手術は少ないが、「生きる」ために後遺症に耐えることは仕方がないと考えていた。

 久保田医師は、がんを再発した男性に、「外来治療では弱い抗がん剤治療になって効果も薄れる」と暗に入院治療の継続を勧めたことがあった。しかし、自宅療養を希望する男性は「妻と自宅でゆっくり過ごしたい」と退院。男性は亡くなったが、妻は「濃密で幸せな時間」に感謝していた。

 「医療の役割は、単に残された時間を引き延ばすのではなく、上手に有意義に過ごしてもらうためにいかにサポートするかだと学びました」と久保田医師。著 書では、夫の献身的な支えで奇跡的に回復した妻、がんになったことでいろいろ学んだと前向きにとらえる若者など、出会った様々な患者と家族が登場する。

 生存率より、生きる質を選ぶ患者がたくさんいる。患者自身が納得できる道を選べるよう、きちんと説明し、寄り添うことが医療の役割――久保田医師はそう考えるようになった。

 この本には、久保田医師のそんな思いが多くの経験とともに込められている。「今、がんに悩んでいる人に読んでもらい、自分自身がどう過ごしたいかを考える手助けになればうれしい」と話す。

 1200円(税別)。問い合わせは出版元のかまくら春秋社(0467・25・2864)へ。

がんと上手に折り合うための15カ条から抜粋>
  • 納得する治療を選ぶ。答えは一つではない。
  • がんを患った時こそ、人生を豊かに生きるため何が大切か考える。
  • 家族、友人こそ本当の財産。助けてもらおう。
  • がんを加勢する酒やたばこをやめよう。
  • 痛みは有意義な時間を奪う。がまんしないで。
2011年09月14日 朝日新聞