2011年6月22日水曜日

がん促進因子を発見

がん8割に共通「促進因子」 九州大グループ発見 横断的な検査法やワクチン開発に道

ヒトの体に、なぜがんはできるのか。この答えは「細胞の働きを決める遺伝子に異常が起きることで起こる」と考えられている。だが、ヒトの遺伝子の数は2万5千あるとされ、がんができる臓器もさまざま。どの遺伝子がどの細胞のがん化にかかわり、どう働いているのかを解き明かすのは容易ではない。世界で研究競争が繰り広げられる中、九州大学の研究グループが、ある遺伝子が日本人のがんの約8割にかかわっていることを発見したと発表した。

発見したのは、九州大学生体防御医学研究所の高橋淳(あつし)講師(血液腫瘍内科学)のグループ。

高橋講師によると、「METTL13」という遺伝子が、肺▽胃▽大腸▽膵臓(すいぞう)▽乳房▽前立腺▽膀胱(ぼうこう)▽卵巣▽子宮体部▽甲状腺▽網膜-にできる11のがんにかかわっていることを見いだした。腫瘍片を調べるなどしたところ、いずれもこの遺伝子がつくるタンパク質が、通常は精巣以外には認められないのに異常に増えていることが分かった。

11のがんは日本人のがんの約8割に及び、高橋講師はこのタンパク質を、英語で「離れ業」を意味する「FEAT」と名付けた。

働きを調べるため、ヒトから取りだした細胞にFEATを加えると、本来は必ず起こる「細胞死」が抑制された。さらにMETTL13をマウスの受精卵に注入して育てると、40匹中33匹に悪性リンパ腫や肝がんなどのがんが現れ、強い腫瘍促進因子であることが分かった。

細胞は日々新しく生まれて死んでいくのを常とし、裏返せば細胞死が滞る異常ががん化と言える。FEATのように多くの種類のがんで増えている因子は、世界で初めての発見という。

米国の分子生物学者でがん研究の第一人者であるロバート・ワインバーグ氏の著書によると、がん細胞は(1)死なない(2)増える(3)周辺の健康な組織内へ浸潤、転移する(4)血管をつくる-ものと定義される。この四つの働きを促すヒトの因子は、これまでに多数見つかり、各因子を狙う「分子標的薬」も次々と開発されている=表参照。しかし、大半は一部の種類のがんに限定して使うものとなっている。FEATの発見は、多くの種類のがんに効く分子標的薬を登場させるかもしれない。

高橋講師はすでに、FEATの増加がみられる各がんに共通して効くペプチドワクチン(免疫療法)の開発に取りかかっており、数年後の臨床試験開始を目指している。

また「FEATが増えている細胞がないかを調べて、がんの早期発見につなげる新たな検査法や、FEATが増えている細胞を標的とした、がん予防の新薬の開発にもつなげたい」としている。

この発見は、14日にインターネット上に創刊された英科学誌「サイエンテフィック・リポーツ」に掲載された。

2011年6月20日 西日本新聞