2011年7月26日火曜日

肺がん新特効薬が57%に効果

ALK阻害剤クリゾチニブは「第2のイレッサ」と有望視 癌研有明・西尾氏

非小細胞肺がん(NSCLC)の特定の患者で劇的な効果をもたらす薬剤として高い期待が寄せられているALK阻害剤クリゾチニブ(ファイザー、国内 申請中)。国内で来年に上市が見込まれているが、7月21日から3日間にわたって横浜で開催された日本臨床腫瘍学会学術集会で、癌研有明病院呼吸器内科副 部長の西尾誠人氏が同剤に対する期待と課題について解説した。その中で、今後のNSCLCの個別化治療は、EGFR遺伝子変異のある患者にEGFRチロシ ンキナーゼ阻害剤(イレッサ、タルセバ)、ALK融合遺伝子陽性の患者にALK阻害剤(クリゾチニブ)を投与するという形に治療アルゴリズム自体が変わる との見方を示した。

ALK陽性進行NSCLC患者82人に対するフェーズ1試験の途中報告(昨年10月のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に掲載) では、奏功率が57%(完全奏功1例、部分奏功46例)、8週間時点での病勢コントロール率(完全奏功(n=1)+部分奏功(n=46)+病状安定 (n=24))が87%と画期的な効果が示されている。
西尾氏によると「イレッサで経験するようなスーパーレスポンダーがいるのと同じ感覚の薬剤で、我々の臨床的な感覚としても『第2のイレッサ』という印象を持っている薬剤」とコメントした。
また、今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表されたフェーズ1の継続試験の結果(投与患者は119人)によると、奏功率は61%、病勢コントロール率 は79%で、ほとんどの患者で腫瘍縮小がみられたという。また、欧州で実施されたフェーズ2試験では、同剤が投与された133人の奏功率は50.4%、病勢コントロール率は85%、無増悪生存期間(PFS)は10カ月、全生存期間は2年生存率が54%であり、西尾氏は「多分、クリゾチニブに前生存期間の中央値は2年くらいになると予想されている」と期待を示した。
一方、ALK阻害剤の投与対象となる患者数は、およそ肺がん患者のうち3~5%とされている。西尾氏によると「ALK融合遺伝子陽性患者は、女性、 腺がん、EGFR遺伝子変異なし、喫煙が少ない、若年者といった人で高くて10%前後。これらの臨床背景で患者選択をするのがひとつの方法」としながら も、必ずしもこれにあてはまらない患者もいるとして、他の方法も考える必要があるとの見方を示した。
また、発表されたフェーズ1試験はALK融合遺伝子の検査法として、FISH法で陽性だった患者のみを対象としたが、その以外の検査法でクリゾチニ ブの投与患者を選択したときに、どの程度の効果があるのか不明だとして、「効率的にALK融合遺伝子陽性肺がんをみつけるための検査法を確立する必要がある」と指摘。加えて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤と同様に、クリゾチニブに耐性を示す患者が出てきているとため、それに対応するための薬剤開発も課題 になるとした。
肺がんにおけるALK融合遺伝子の存在は、日本人研究者の自治医科大学の間野博行教授らによって07年に初めて報告された。クリゾチニブはALKを 阻害することにより、腫瘍細胞の成長と生存に必要と考えられる数々の細胞内シグナル伝達を遮断する薬剤。国内では複数のALK阻害剤の開発が進行中とされ るが、クリゾチニブはその中でも最初に上市が期待されている薬剤。

2011年7月25日 ミクスONLINE