2011年7月13日水曜日

NK細胞で がん細胞を撃退

がん細胞免疫逃れる仕組み解明/弘大・鷹揚郷研究グループ

弘前大学大学院医学研究科泌尿器科学講座の大山力教授と、鷹揚郷腎研究所生化学研究部部長の坪井滋理学博士を中心とする膀胱(ぼうこう)がんの研 究者グループは、がん細胞がある種の糖たんぱく質を発現させて免疫から逃れるという新たな仕組みを解明した。この仕組みを持つ細胞の有無が悪性度の高いがん細胞の診断や患者の病後予測、治療方針を決める判断材料になるほか、仕組みを利用することで新しいがん治療薬の開発につながることが期待されている。
研究成果は、生化学分子生物学分野のトップジャーナルである「The EMBO Journal」電子版に6月28日付で紹介された。

がん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って転移するが、血中にはがん細胞を攻撃するリンパ球の一種「ナチュラルキラー(NK)細胞」が存在しており、通常であればNK細胞はがん細胞の表面に発現するたんぱく質(MICA)を目印に攻撃し、転移を防御する役割を果たす。
しかし、がん細胞の中には目印となるMICAを消したり、切り離してNK細胞の攻撃を逃れて転移するものも存在することが、これまでに明らかになっている。
大山教授と坪井博士らの研究者グループは膀胱がんの転移について研究しており、MICAを消したり、切り離すがん細胞ではなく、酵素の一種「C2GnT」が出ている「特別なタイプ」(坪井博士)のがん細胞に着目した。

研究の結果、このがん細胞はMICAに特殊な形の糖を付けてC2GnTを作り出し、さらにガレクチンというたんぱく質がかぶさることで糖たんぱく質を発現し、NK細胞に認識できなくする“盾”のような仕組みを持って転移することが分かった。
大山教授、坪井博士によると、膀胱がんで膀胱を全摘出した患者への追跡調査で、手術後2000日の生存率はC2GnTを作るがん細胞を持たない患者が約9割なのに対し、C2GnTを作るがん細胞を持つ患者は約3割と大きな開きがあった。
またマウスを用いた実験では、C2GnTを作るがん細胞を移植した場合と、作らないがん細胞を移植した場合では、肺に転移する確率に10倍近い差が表れたという。

現在、研究者グループはがん細胞がC2GnTを作製できなくする試薬の開発を進めており、大山教授は「抗がん剤とは全く違い、自分のNK細胞を使ってがん細胞をやっつける薬となり、副作用はないものになる」と期待する。
研究者グループは、膀胱がん以外のがんにも解明した仕組みが当てはまるか研究を進めるほか、この仕組みを応用して臓器移植の拒絶反応を抑制する研究にも取り組む方針。

坪井博士は「がん細胞が死ぬのは、ある種の拒絶反応。移植の拒絶を抑えるためにこの仕組みを逆利用する」と述べた。

2011年7月13日 陸奥新報