2011年10月14日金曜日

がん転移は完全に抑制

がん転移の兆し察知 慶応大など研究続々

 日本人の死亡原因の1位を占めるがんで、転移を抑える研究が相次いでいる。がんは手術などで切除しても、骨やリンパ節など体のあちこちで再発してしまうと治療が難しい。1カ所にとどまるなら、克服できるがんもある。5日まで名古屋市で開いた日本癌(がん)学会では、がんの治療効果を高めるため、転移の兆しをいち早く探しだし、先手を打って防ぐ試みが発表された。

 国立がん研究センターは、がん細胞から微小な分子が血管に流れ込んでいることに着目した。ヒトの乳がん細胞をマウスの乳腺に移植し、がん細胞の酵素の働きを抑えてみた。がん細胞が「マイクロRNA(リボ核酸)」と呼ぶ分子を出さなくなると、転移しやすい肺やリンパ節に3週間たってもがんができなかった。「転移は完全に抑制できた」(小坂展慶研究員)

 マイクロRNAが血液を通じて離れた場所にある細胞の遺伝子に入り込むと、そこにがんができやすくなるとみている。がんを呼び寄せる仕組みがあるようだ。

 慶応大学の工藤千恵講師は、がん細胞の遺伝子「HERV―H」が転移に関わっていることを突き止めた。この遺伝子が働くとたんぱく質などががん細胞から 出てくる。免疫細胞を弱め、がん細胞がほかの臓器に移るきっかけになるという。たんぱく質を壊すと転移を抑えられることがマウスの実験で分かった。

がん転移対策の研究例 研究対象主な成果

▼転移を防ぐ 東京大学医科学研究所、順天堂大など 血液凝固たんぱく質が血液がんの転移を制御する酵素に作用する現象を発見。白血病マウスで治療実験に成功 国立がん研究センター がん細胞から出る微小分子を抑える 慶応大 がん細胞が作るたんぱく質などの働きを抑え、免疫力を正常化 ▼転移を予測 東京医科歯科大 大腸がん患者で特定遺伝子「PDGFC」が過剰に働くと転移確率が高まることを発見。診断に応用へ ▼転移を可視化 三重大 特殊な顕微鏡で転移を診断

 工藤講師は、ほとんどのがんでみられるリンパ節への転移を防ぐ治療薬を開発したいという。

 一方、転移しても小さいがんなら治療しやすい。三重大学チームは、組織の奥深くを観察できる特殊な装置「二光子レーザー顕微鏡」を使い、内臓を切らずに転移を調べる技術を開発した。

 血液中の血小板や白血球が緑色に光る遺伝子改変マウスの脾臓(ひぞう)に、赤い蛍光を放つようにしたヒトのがん細胞を注射した。がん細胞の一部が血管を通って肝臓に移動し、1~2カ月後には転移がんが育つ様子などが観察できた。抗がん剤の投与でがんが縮む様子も見えた。

 東京医科歯科大学のチームは特定の遺伝子を目印に再発や転移のリスクを測るのが目標だ。血液検査で遺伝子を調べ、予防的に抗がん剤を投与できる可能性がある。

2011年10月12日 日本経済新聞